思考を感覚に、感覚を思考に。
瀬戸内海に浮かぶ、茶色い煙突がトレードマークの犬島。
人口は約50人、1時間もあれば徒歩で島を回れるぐらい小さな島ですが、ここで見たこと、考えさせられたことはとんでもなくスケールが大きかった、、、。
そもそもこの島に来たのは、好きな建築家、妹島和世さんの作品群「家プロジェクト」を観るためでした。
この作品群は、空き家となった家屋に手を加えて現代アートを収めるギャラリースペースにしたものや、建物自体を一つの作品としたもののことを指します。
アクリルやステンレスを使った現代アートを、古い集落のど真ん中で、景観を壊さずに、そしてときには周りの環境までも作品の一部として魅せる技には脱帽でした。
でも、それ以上に衝撃を受けたのが「犬島精錬所美術館」。
この美術館は、20世紀初頭に10年間だけ稼働していた銅の精錬所を活かして、近代化の在り方に異を呈した三島由紀夫をモチーフにした作品を収める美術館です。
犬島と三島由紀夫??
よく分からないんだけど!!と思って、学芸員さんの話を聞いたりパンフレットを読んでみたら、なるほど、こういうことでした。
このプロジェクトの発起人、福武總一郎さんのお話をまとめるとこんな感じ。
1996年に三島由紀夫の旧邸宅を解体する際、福武さんはその部材を入手し、保存する機会を得ました。
三島由紀夫といえば、高度経済成長期の日本の在り方に違和感を抱き、声を挙げた作家の一人。
そんな彼の思いを生かし、保存する場所として思いついたのが犬島。
というのも、犬島も銅の精錬所という近代化の負の遺産を抱えていたからです。
この犬島で、三島由紀夫の遺品をアートとして再生することで現代社会へ一石を投じたい。というのが福武さんの狙いでした。
三島旧邸宅の部材は柳幸典さんというアーティストの手によって、作品として姿を変えています。
写真がなくて残念ですが、三島邸の三畳間を天井から吊り下げたり、家の呼び鈴の電池を神棚に祀るように並べてみたりと、あっと言わせるような作品ばかりでした。
と、同時に正直よく分かんないや!!と思う作品も。
学芸員さんに聞いても、それは、、、。と困ってしまうほどの強者作品。
考えすぎて疲れてしまい、一旦頭を冷やしに美術館の屋上へ。
座ってぼんやり考えごとをしたとき、不意に地中美術館の学芸員さんに教えて頂いた格言を思い出しました。
「感覚を思考に、思考を感覚に。」
深い意味までは知りませんが、自分なりにはこんな風に解釈。
言葉って表現方法の一つに過ぎない。
だから、人は言語化できないものを絵や彫刻、音楽で表現する。
そう考えると、三島由紀夫が“言語化”できなかったメッセージが犬島という場所、そして柳幸典さんというアーティストによって、“感覚的”に再提示されたのかなと思えてきました。
よって、こちらもそれを言葉として落とし込む必要はなく、感覚的に受け止めれば良いのかなと。
まさか小さな島で、こんなにスケールの大きい問題を突きつけられるなんて思ってもみなかったです。
何だかやられたー。と思いつつ、ますます瀬戸内海エリアのアートプロジェクトに興味が湧いてきました。
※島へ降りてすぐ、小さな男の子が駆け寄ってきて摘んだお花をくれるというほっこりするエピソードもありました。
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参考 : 犬島精錬所美術館ハンドブック(Art) / 公益財団法人福武財団