居心地の良さと美味しい記憶。

何事においても「こだわったらきりがない。」というけれど、自分にとってのこだわりはカフェやレストランの空間だと思う。
もちろん映えるような内装のお店は嬉しいけれど、それ以上にこだわりたいのは次の三つ。
席の間隔、椅子の座り心地、選曲と音響のボリューム。

席の間隔は言葉のとおりで、いくら素敵でも大衆食堂のようにぎっしりテーブルが詰まっているとそわそわしてしまう。「野外で生活を営んでいたときの名残か、人間は食事をしているところを襲われるリスクを本能的に感じていて、無意識的に壁側の席を選びたがる。」昔、高校生のときに英語の長文読解で読んだ文章をふと思い出したが、自分が感じるそわそわ感もまさにそのようなものなのだと思う。今日も某和食チェーンで食事をして、食後に少しおしゃべりでもしてから帰ろうと思っていたが、隣の人との距離が近すぎるのとその人の行儀の悪さが目に入って、淡々と食事を済ませて帰ってしまった。お店としては収容人数を増やしたり、回転率をあげることで利益改善に繋がるので理想主義的な話かもしれないが、空間を居心地よくして来店時の満足度を上げることで長く通い続けてくれるファンを増やす方法も是非取り入れてほしいと思う。

椅子の座り心地に関しては、そのとき自分がどのように過ごしたいかによるが、基本的に平べったくて硬いカウンターチェアのお店はいくら美味しいお店でも諦めてしまう。ゆっくりとその美味しさを噛み締めたいのに、先にお尻が疲れて帰宅したがるからだ。

また、ふかふかのソファーは大好きだけど、コーヒーを手に取るのによっこいしょと起き上がれないほど沈みこむタイプだとよろしくない。
理想はリラックスした姿勢で食事を楽しみつつ、おしゃべりもちょっとした作業もこなせる椅子と机の組み合わせ。この理想を叶えたカフェのひとつがマーガレットハウエル神南店だと思うので是非行ってみてほしいと思う。見た目はインダストリアルな素材の椅子と机なのだが、椅子は腰を優しく包み込むような絶妙なカーブを描いており、とにかく体がリラックスする。長居しようとしてついついポット入りの紅茶を頼んでしまうぐらい好きな空間の一つである。f:id:marikojikoji:20211212225341j:image

三つ目の選曲と音響のボリュームも居心地の良さに大きく関わる。かつてポルトガルを旅行したときこんな経験をした。その日はせっかくの海外旅行なのでと、街でちょっと良いレストランで夕食をとることにした。店内には繊細なメロディのクラッシック音楽が空間をやさしく包むように響きわたっており、ビシッとかっこよくスーツを着こなしたウェーターさんは流れるような手つきで食事を並べ、お隣では気品のある老夫婦でワインを嗜んでいた。完成されすぎているシチュエーションに、現地の人から見たら10代そこそこに見える私たちは肩をガチガチに緊張させながらメニューとにらめっこすることになった。しかし、お隣のご夫婦が食事を終え、親子連れと若者のグループが入店すると、音楽はビルボードのヒットチャートにありそうなポップ・ミュージックに早変わり。いきなり若者が集うカジュアルレストラン風のヤングな空間(?)に雰囲気が様変わりして「今までの緊張はなんだったの??」と思わず気が抜けて笑ってしまった。音楽ひとつで空間を変えることができるんだなと強く実感した一幕だった。もともと音楽には少しうるさい性格だったが、一層お店で流れる音楽を気にするようになった。いつか自分の忘備録も兼ねて音楽が良かったお店を書き連ねたいと思う。

音響のボリュームもお店でゆっくり過ごすうえではとても重要で、自分は店内でスピーカーを確認できると極力そこから離れた席を選ぶようにしている。たまに全力で良い雰囲気を出そうとしてジャズやAORを大音量で流すお店に遭遇するのだが、音量が大きすぎて相手に声が届かないうえに、ついつい音楽に気を取られるから頭が疲れてしまい、残念な気持ちでお店を後にしてしまう。店内の空調温度と居心地や料理との関係を配慮するのと同じぐらい、音響と居心地も真剣に考えてほしいと思う。ちなみに選曲とボリュームがちょうど良いお店としては、ブックカフェのFuzkueが大好きだ。おしゃべりやパソコンのカタカタ、ペンのカチカチなど読書空間を徹底的に追求するためのルールで静けさが保たれた店内にアンビエント音楽がスーッと染み渡っている感じがたまらなく居心地が良い。しばらく行けていないが、自分にとっては(実家とマンション除いて)東京で一番安心できる環境がFuzkue。興味のある方はお店のルールをよく読んだうえで是是非足を運んでほしいと思う。f:id:marikojikoji:20211212225421j:image

こうやって読み返してみると自分って面倒臭い人間だなと思うが、料理って食べる環境で美味しさの思い出も捏造されかねないと勝手に思っている。だから自分の美味しい思い出を守るためにもお店探しにはこれからも熱を注いでいきたいと思う。(49/100)